#047 北森鴻 『凶笑面』|読書NOTE~読んだ本の感想・レビュー~

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ブログタイトル、過去のものに変更しました。

#047 北森鴻 『凶笑面』

凶笑面
著者:北森鴻
発行元:新潮文庫
初 版:2003年02月01日




内容(裏表紙から引用):
≪異端の民俗学者≫蓮丈那智。彼女の研究室に一通の調査依頼が届いた。ある寒村で死者が相次いでいるという。それも禍々しい笑いを浮かべた木造りの「面」を、村人が手に入れてから―(表題作)。暗き伝承は時を超えて甦り、封じられた怨念は新たな供物を求めて浮遊する…。那智の端正な顔立ちが妖しさを増す時、怪事件の全貌が明らかになる。本邦初、民俗学ミステリー。全五編。


所 感:
民俗学とは、(以下wikipediaより引用)
風俗や習慣、伝説、民話、歌謡、生活用具、家屋など古くから民間で伝承されてきた有形、無形の民俗資料をもとに、人間の営みの中で伝承されてきた現象の歴史的変遷を明らかにし、それを通じて現在の生活文化を相対的に説明しようとする学問である。(引用ここまで)

学問とはいえその基は、言い伝えや習慣、風俗であるのだから
柳田國男のように真剣に研究する場合は別として
単純解釈すればそれほどとっつきにくいものではないだろう。

しかし主人公が学者とあっては、
なんやかんやとややこしくって小難しい作品かもしれないと敬遠していた。

ところが!先日読んだ『狐闇』にちらっと登場した蓮丈那智が
あまりにも個性的で魅力的なキャラクターだったので
「これは読めるかも!いや、むしろ面白いかも!」と、
手を伸ばしてみた。

結論から言うと、ずばり面白かった。

『東経一三七度三十分 北緯三四度四〇分の付近の海上に南北五キロメートル 東西一キロメートルほどの小島を仮定する。住民八十名ほどのA集落と七十名ほどのB集落に、このたび民俗調査を試みた。その結果非常に興味深い事実を得ることができた。*この島には渡来神伝説、および浦島伝説に類する伝承が一切ない。このことについて可能なかぎりの仮説をあげよ』

卒業試験でこんな問題を出す人間が面白くないわけがない。
ちなみに那智の民俗学のモットーは、
「民俗学とは想像学の学問である」と
「大切なのは一にも二にも、フィールドワーク」。

那智は助手の内藤を伴って現地調査に頻繁に出かける。
調査にはお金がかかるが、そんなことは那智の知ったことではない。
内藤が予算を取ってくればいいだけの話なのだ。
そんなわけで内藤はいつも那智に振り回される。

が、那智のことは嫌いではないらしい。
胃をきりきりさせながらも右へ左へと那智のために奔走しているのだから。

那智と内藤のやりとりは時にユーモラスでもある。
例えば、現地調査に行きたい那智と、
既にその年の予算を超えて研究費を消費しているため
教務部が費用を出してくれるわけがないという内藤とのこのくだり。


「じゃあ、今回はわたしが立て替えておく。年度が明けてから、日付をずらして費用を請求しよう」

「いつのまにそんな悪知恵が働くようになったんですか」

「臨機応援という日本語はきみの辞書からいつ削除されたの」



このように那智はとっても行動的。
そして内藤には従う以外の選択肢はない。
なんて魅力的なコンビなんだろう。

こうやってちょっとした一悶着の後、
現地調査に出かけた先で那智と内藤は事件に巻き込まれ、
民俗学的調査のもと、民俗学の「謎」と事件の「謎」の解決をする。
本作に収められている短編は基本的にすべてこの構成である。

そしてこの基本構成に面や秘祭や家屋や仏像と
それにまつわる言い伝えといった民俗学的要素が肉付けされる。
この民俗学的要素こそがこの作品の最大の魅力と言える

。例えば、「鬼封会」という祭。
禍々しい笑いを浮かべた面。
両腕のない仏像。
那智は現代まで残る伝統や言い伝えや記録を元に
検証やディスカッションを重ね、
それらの慣習や事物が「意味するところ」を解いていく。

その検証には歴史的要素も登場してなかなか興味深い。
そして那智が上げる説には説得力がある。
フィクションとわかっていても、なぜかリアリティを感じてしまう。

それは、民俗学という「答があってない」学問がもたらす作用かもしれない。
「もしかしたらそうかもしれない」、
「いや そうではないだろう」と、
想像をいくらでも読者に委ねられるからだ。
しかし理由はそれだけではない。

本作が持つ圧倒的な説得力の理由は資料の多さにある。
巻末に収められている引用文献の多さには驚いた! 

解説の法月綸太郎が引用している著者の言葉にこんな一文がある
「もともとこの“蓮丈那智シリーズ”は民俗学を取り入れたミステリーということで、非常に制約の多い作品である。短篇の割に資料を多くつかわねばならないこともあって、あまり量産のきくものではない」

著者は綿密な下調べを行いこの作品に取り組んでいる。
そしてその成果がこの不思議なまでの説得力とリアリティなのだ!

確たる正解のないものが好きなわたしにとって本書は好みの作品。
ただ、この手の要素に興味がない方にとっては読み難い作品ではあるだろう。


最後に、本作に収められている『双死神』という作品は『狐闇』とリンクしていて、
宇佐美陶子も少しばかり登場する。
そして『狐闇』ではその理由がよくわからなかった内藤登場の真実も語られる。
『狐闇』を読まれた人間は思わずにやりとしてしまう。
ラストでは那智と内藤そして陶子が一堂に会する場面があるのだが、
その集合場所はあのビアバーだったりして、
北森作品の読者には嬉しい仕掛けとなっている。


そして本書の冒頭にはこんな一文が…

諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」に捧ぐ



『凶笑面』収録作品
・鬼封会
・凶笑面
・不帰屋
・双死神
・邪宗仏





2014年04月28日| コメント:0トラックバック:0Edit
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