ワーキング・ホリデー
著 者:坂木司
出版社:文春文庫
発行日:2010年01月10日
内容(Bookデータベースより引用): 「初めまして、お父さん」。元ヤンでホストの沖田大和の生活が、しっかり者の小学生・進の爆弾宣言で一変!突然現れた息子と暮らすことになった大和は宅配便ドライバーに転身するが、荷物の世界も親子の世界も謎とトラブルの連続で…!?ぎこちない父子のひと夏の交流を、爽やかに描きだす。文庫版あとがき&掌編を収録。
所感:
実は、坂木作品はそれほど得意ではない。
『青空の卵』から始まるひきこもりシリーズ(最終巻未読)で
その存在を知り、
「これはハマるな」と確信して数冊購入して早数年。
まだ数冊しか読んでいないのに飽きてしまった。
特に『短劇』がいけなかった。
ちょいブラックという好みの分野だけに、
変に目の肥えたわたしには物足りなさすぎたのだ。
とはいえ、購入したからには読まねばなるまい。
と、軽い決意で手に取った本書。
はっきり言おう、
参りました。
そして見直しました。
こんなのも書けたのですか、
坂木さん!!「初めまして、お父さん。」 ある夏の日。
ヤンキー上がりの3流ホスト大和の前に突然現れた
しっかり者の小学生、進。
大和のことを「お父さん」と呼ぶ進の出現で大和の生活は一変!
ホスト稼業を引退し運送業に転職。
そして始まった「はじめての」父子生活は、
さぐりさぐりの連続で…。
今まで死んだと聞かされた父親の存在を知ってしまった小学5年生の進。
彼は夏休みを利用して、まだ見ぬ父親と暮らしてみようと決意する。
そして実行する。
しかも、父親の職場がホストクラブだというのに、
そのホストクラブを訪れちゃう。
このあたりが「しっかり」している。
大和の元交際相手で進の母親である由希子の
教育方針がそっくりそのまま活かされている。
そしてこの「しっかり」がちょびっと生意気で、
でも時に子どもらしいところもあって可愛らしい。
一方、父親の大和は単純で単細胞。
でも曲がったことは嫌いで弱いいじめなんかしない、
男気のあるタイプ。
この全くタイプの違う男ふたりの暮らしが物語の核となるところ。
大和にとっては初めて尽くしの父親体験。
進だって、父親との暮らしは初めて。
だからふたりの暮らしはさぐりさぐり(笑)。
なのだけれど…
根がすこぶるいい大和だから、
進との距離も縮んでいく。
でも親子だからこそ、時に反発しあい
離れていたからこそ距離感がつかめず、
悩んだりぶつかったり。
周囲の個性的かつあったかい人々を巻き込んで
すごくハートウォーミングな連作短編集となっている。
読後感は爽やかでしかもあったかい。
すごくすごく好きだなぁ。
続編『ウインターホリデー』が刊行されたので
文庫化したら手に入れよう。
坂木作品は手持ち(あと2冊かな、積んでいる)だけに
しようと思っていたけれど、
このシリーズはこれからも追いかけていくことに決めた!
『ワーキング・ホリデー』収録作品 ・宛先人不明
・火気厳禁
・こわれ物注意
・代金引換
・天地無用