貴族探偵
著 者:麻耶雄嵩
出版社:集英社文庫
発行日:2013年10月25日
内容(Bookデータベースより引用): 信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か?捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生!傑作5編を収録。
所感: 探偵とは…
1 他人の行動・秘密などをひそかにさぐること。また、それを職業とする人。
2 敵の機密や内情をさぐること。また、その役目。スパイ。隠密(おんみつ)。密偵。
(大辞林より)
「貴族探偵」というタイトルからして、
貴族の身分の人が探偵して活躍するお話だと思っていたら…
違った。
貴族探偵を名乗る人物の名前は明かされない。
彼の身分や地位は相当高い。
だから貴族という自称に間違いはない。
しかし彼は探偵ではない。
優秀な使用人たちを雇い、駆使し、事件を解決させる。
いわゆるアームチェアディテクティブとも異なる。
彼は自ら推理することをしないのだから。
彼曰く、
「雑用は家人に任せていればいいことだ」。
探偵なんていう雑用は彼の手をわずらわすようなことではないらしい。
麻耶さんといえばメルカトル鮎。
傍若無人で自分のことしか考えないメルを読んできたからか、
貴族探偵のキャラには抵抗がまったくなかった。
それどころか、先の発言などは
分をわきまえたものだななどと感心してしまったくらいだ。
収録されているのは5編の短篇だ。
貴族探偵が有する聡明な使用人たちが活躍する。
『ウィーンの森の物語』 信州の山荘で密室で、遺体で見つかった会社社長。
容疑者は山荘に滞在していた数人。
執事の山本が犯人を特定する。
『トリッチ・トラッチ・ポルカ』 廃倉庫で見つかった30歳前後の女性遺体。
事件を追う刑事の先をいく男女の影。
ティーセットを広げた廃倉庫の中で、
メイドの田中の推理が冴えわたる。
『こうもり』 格調高い温泉旅館に宿泊中の作家の義理の妹が他殺体で発見されて…
メイドの田中が、読者をも騙す意外なトリックを暴く。
『加速度円舞曲』 富士山が見える仕事場で、作家の他殺体が見つかった。
運転手の佐藤が2mもある巨体からは想像もつかない緻密な推理を披露する。
『春の声』 ひとり娘の婿養子にと集められた3人の若者たち。
娘を射止めるレースの途中、彼らは何者かに殺害された。
館の周りに降り積もった雪に足跡は見当たらない。
貴族探偵にお供していた山本、田中、佐藤の三人は
探偵の命に従ってひとり一件ずつ事件を解決する。
使用人たちが事件を調べているあいだ、
貴族探偵は何をしているかというと、
紅茶を飲んだり女性を口説いたり、と
それなりに忙しそうだ。
こういう探偵の設定、
今まで読んだことがないのだけれど、
初めての試みなのだろうか。
だとしたら思い付いた麻耶さん、すごいなぁ。
そして『こうもり』のトリックは秀逸だった。
しかし麻耶さんらしい詰めの甘さが随所に見受けられる。
例えば「敷居が高い」の誤用。
新聞やテレビで紹介される「間違った使い方」そのものだ。
もしかしてわざと使ってこの用法を世間に普及させる作戦なのかしらん。
使用人は他人を「様」付けで呼んだり、
「さん」付けで呼んだり。
ひとつの短篇の中でそれをするもんだから、
統一感がない。
ツメが甘いといわざるを得ない。
そして敬語の間違い。
作中で登場人物に
みな礼儀正しく所作も一流だった。
と言わしめる使用人が
「申し上げさせていただきます」なんて言うわけがない。
ま、こういうツメの甘さも笑って許せてしまうのが
麻耶さんなのだけど。
『貴族探偵』収録作品 ・ウィーンの森の物語
・トリッチ・トラッチ・ポルカ
・こうもり
・加速度円舞曲
・春の声
続編はこれ↓