#183 中田永一 『百瀬、こっちを向いて。』|読書NOTE~読んだ本の感想・レビュー~

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#183 中田永一 『百瀬、こっちを向いて。』

百瀬、こっちを向いて。
著 者:中田永一
出版社:祥伝社文庫
発行日:2010年09月05日





内容(裏表紙より引用):
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」 
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


所感: 
著者との出会いは恋愛アンソロジー『I LOVE YOU』。
そこに収録されている表題作がとても好みだったので本書を手に取ってみた。

ちなみに本書の著者であるは既に有名な作家さんの別ペンネームらしい。
以前から噂はあったのだが最近ご本人がツイッターで認めたようだ。
(ちょっと検索すればヒットするのだろうけれど、ここでは書かないでおく)

本書をひとことで表すと、恋愛短編集。
恋愛小説は好んで読まない上に、
間違って手にとってもそれほど「楽しい!」と思えることはないけれど、
これはほんっと、よかった。


「きゅんきゅん」ではなく、
「きゅん」なラブストーリー。


甘すぎず、かといって苦くもない。
「きゅん」となるラストに想像や空想、
妄想を重ねる「余地」がある。

明確に表現されているものだけではなく、
描かれていないが感じられる「モノ」から想像を膨らませる。
そしてこれが「余韻」となる。

この「余韻」が、本当にすごい。
ラストから派生する「なにか」は、
想像する個々人によって内容はおそらく異なる。

しかし、自分で想像する作業はたいていの場合
自分好みの仕様に仕上がるので、
だいたいのひとは充分すぎる満足感を得られる。

『なみうちぎわ』は、「ありえねー!!!」ってくらいの
悪く言えばご都合主義なストーリーなのだけれど、
不思議と違和感はない。

偶然も必然に。
奇蹟的な出来事の全てを甘受し肯定したくなってくしまう。

読者に野暮な突っ込みを許さない。
これは筆者の力量のなせる技だろう。

『キャベツ畑に彼の声』は国語教師に恋する女子高生のお話。
なんだけれど、これがまた変化球で…。

上手く書き表せないっていうのもあるのだけれど、
出来れば先入観なしに読んでもらいたいから詳しくは書かない。

『小梅が通る』はブスメイクで登校する
人間不信に陥った女の子のお話。

こちらもこの一文だけである程度は想像できるかもしれないけれど、
読むとまた違った印象を受けることになるだろう。

短編全体から放たれる雰囲気も好みなのだけれど、
もっと細かく見ていったときに、
ひらがなの使い方がとても特徴的なことに気づく。

漢字で表記できるものも敢えてひらがなで表しているのだ。
そうすることで作品全体の雰囲気が柔らかくなる。
かといって何もかもひらがなで表せばよいのかと言えば決してそうではなく、
そのあたりのバランスがとても巧いのだろうなぁ。

人を信じられなくなった臆病な心に愛と勇気を与えてくれる、
そんな一冊だった。



*気に入った箇所を少し引用。
***
略)色恋沙汰にはうといほうだが、愛と恋のちがいについて抱いているイメージがある。燃焼反応の化学式だ。愛とは状態のことで、恋とは状態が変化するときに放出される熱なのではないか。一階から二階へ階段をのぼるのと身体があったかくなるのとおなじだ。心が熱を発しながら、今よりも上の、広くてふかい愛情の段階へ移行しているのだ。
『なみうちぎわ』


***
(略)炭素1モルと酸素1モルから二酸化炭素1モルが生成するときに発生する燃焼熱は何キロジュールだろうかと計算した。こたえは393キロジュールだった。
『なみうちぎわ』

 カセットテープのプラスチック部分が熱でとけ始め、炭化するのをながめた。炭素1モルと酸素1モルから二酸化炭素1モルが生成するときに発生する燃焼熱は393キロジュールだ。さっき読んだ小説にそう書いてあった。
『キャベツ畑に彼の声』

こういうさりげないリンクがまた好みだったりする。



『百瀬、こっちを向いて。』収録作品
・百瀬、こっちを向いて。
・なみうちぎわ
・キャベツ畑に彼の声
・小梅が通る


2014年07月04日| コメント:0トラックバック:0Edit
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