逃亡くそたわけ
著 者:絲山秋子
出版社:講談社文庫
初 版:2007年08月10日
内容(裏表紙より引用): 「どうしようどうしよう夏が終わってしまう」軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた「あたし」は、退屈な精神病院からの脱走を決意。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡が始まった。道中、幻聴に悩まされ、なごやんと衝突しながらも、車は福岡から、阿蘇、さらに南へ疾走する。
所感: ちょっと前のことになるけれど。
絲山祭を始めたとき、文庫化されている作品を全て購入した。
そして次に、読む順番を決めた。
「順番」といっても、
まずフィクションを読み切ってそれからエッセイを読む、
という大雑把なものだ。
そして本書が手持ちの絲山フィクションのラスト。
本書にはなかなか手が伸びなかった。
「精神病院」に「自殺未遂」に「逃亡」…
裏表紙を読むだけでいやーな重さを感じてしまう。
だけど…
後に控えているエッセイを読みたいので意を決して手を伸ばしてみた(おおげさ)。
そうしたらっ!!!
軽いのなんのってーっ!!!!
いや、軽いという表現はおかしい、な。
思っていたよりずいぶん軽いといいたいわけだから…
重すぎずサクサク読めるがより正確だ。
自殺未遂が見つかって精神病院に入れられた「あたし」は
入院仲間の「などやん(24歳男性)」を誘って、彼の車で逃亡の旅に出る。
福岡、大分、別府、阿蘇、宮崎、鹿児島、指宿…
ふたりは各地を転々としながら逃げ進む。車内はふたりきり。
入院仲間という関係性しかないふたりは衝突し、けんかし、
仲直りし、時には車が調子を崩したりして、ひたすら逃げる。
これはロードムービーだな、うん。
(と思ったら、映画化されているようです)
本書に登場する人物はとても少ない。
ほぼ全編車での逃亡劇なので、
登場する会話のほとんどが「あたし」と「なごやん」だもの。
名古屋生まれで東京コンプレックスのなごやん。
福岡生まれの福岡育ちのあたし。
見舞いにきた親とも会話を標準語で押し通すなごやん。
と、福岡弁全開のあたし。
この対比が楽しい。
このなごやんがまた、めちゃくちゃいい人なのだ。
はじめは頼りない男だなぁ…と思っていたのだけれど、
作品の終わり頃には大好きになった。
絲山さんの描く「ヒト」って、なんだか好きだなぁ。
さて余談をひとつ。
『スモールトーク』で斬新な車像を披露したわたしだが、
本書でもひとつ車について学んだことがある。
「ポルシェ」という車があるが、てっきりイタリア車だと思っていたら
ドイツ車だそうだ。
ポルシェ=イタリア車だと思い込んでいるひとは意外に多いのではないかと
思うのだけれど…どうなのだろう。
(いや、ポルシェってイタリア車でしょ?
絲山流「おちゃめ」なんじゃないのー? )
と根拠のない自信をもって一応検索してみたのは
、ここだけのはなし。
元CIAのエージェントだった連中が、現在は精神病院に収容されているのですが、その病院の院長が殺される。
連中に容疑がかかる。
そこで連中は病院を脱走し真犯人探しに。
タイムリミットは連中の精神安定薬が切れるまで。
有能なのに、徐々に呆けてゆくというあたりが面白い♪
内容は全く違うけれど『逃亡くそたわけ』を思い出す作品でした。