#226 米澤穂信『ボトルネック』|読書NOTE~読んだ本の感想・レビュー~

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ブログタイトル、過去のものに変更しました。

#226 米澤穂信『ボトルネック』

ボトルネック
著者:米澤穂信
出版社:新潮文庫
初 版:2009年10月01日



内容(裏表紙より引用):
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。


所感:

【ボトルネック】
瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。(改行)そこから、システム全体の効率を上げる場合の妨げとなる部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。(改行)全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。(p.153より引用)

ボトルネックと単語を耳にすると以前の勤め先を思い出す。
そこの代表が良く言っていたのだ。
「ボトルネックを見つけて排除しなきゃ」と。

ほとんどの社員がその台詞を聞くたびに思っていた。
「○○さん(=代表)、ボトルネックはあなたですよ」と。

そういう風に、人を指してボトルネックと呼ぶこともある。
まぁわたしが挙げた例はあんまり誉められたものではないけれど。

亡くなった恋人と東尋坊で追悼していたぼくは
断崖から墜落した次の瞬間、地元である金沢の街中にいた。
不思議に思ったぼくは急いで帰宅するも
出迎えたのは見知らぬ姉だった。
ぼくの記憶では彼女は、
僕が生まれる以前この世に生を受けることなくなくなっていた。

どうやらぼくは「ぼくが生まれなかった世界」へワープしてしまったらしい。

ぼくの両親の間には子どもが二人。
これはこの世界では絶対効のようだ。
しかしここから世界は二つに分かれる。
ひとつは長男とぼくの二人兄弟。
もうひとつは長男とぼくの世界では流産したことになっている姉の二人兄妹。

ぼくの生まれなかった世界では、
亡くなった恋人は生きていて両親は仲睦まじい。
それに比べてぼくが生きる世界は…。
ぼくは潰されてしまわないように全てを受け入れ、
何も考えないことにした。

主人公の「ぼく」こと嵯峨野リョウは
ぼくが生まれなかった世界に突然迷い込んでしまう。
その世界では、リョウとは全く違う性格を持った姉・サキが
嵯峨野家の末っ子として日常生活を営んでいた。

リョウの世界においてもサキの世界においても、
日々起こる出来事は同じ。
しかしこれら二つの世界では同じ原因をもってしても
そこから生まれる結果が天と地ほど違う。
これが「ぼく」とサキの違いなのか。

「自分が生まれなかった世界」における
「自分が生まれた世界」よりもはるかに優れた日常の光景を見せつけられたリョウは、
衝撃的な「あること」に気づく…。

読了後に読書メーターに「読んだ本」として登録するのだけれど、
そこで他の人の感想を見て驚いた。
「救いがない」、「絶望的」といった感想が目立つのだ。

わたしは最後まで本書を読み切って、
そういった感想はそれほど抱かなかった。
わたしの感性は鈍すぎるのだろうか。

確かに
「嵯峨野サキの生きた世界の方が、嵯峨野リョウの生きた世界よりもいい場所だという事実」を
リョウはこれでもかというほど見せつけられる。
何もかもを受け入れようと努め、何もしてこなかったリョウ。
それは彼が生きる術でもあった。

一方サキは、リョウと同じ境遇に陥っても「何か」をしようとし、
「何か」を成し遂げていた。
その二人の生き方の違いがパラレルワールドに差をつけた。

その対比にリョウは絶望する。
受け入れ難い現実を受け入れることを余儀なくされる。
だから絶望感は多少感じられる。
だけど…救いがないとは思わない。

本作のラストは明確には書かれていないのだけれど、
わたしはそこに希望を見てしまう。

自分が生まれた世界よりも良い「生まれなかった世界」を見てしまったリョウ。
サキの生き方を見て、
状況を変えること、考えることができるということを知ったリョウ。
全てを受け入れることも生きる術だけれど、
それ以外の道を知っった彼はきっと明るい未来を手に入れることができるだろう、と。


2014年08月27日| コメント:4トラックバック:0Edit
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 コメント一覧 (4)

    • 1. miroku
    • 2014年08月28日 22:34
    • どうなるのでしょうね・・・。
      というラストですね。
      私も希望を見ましたが・・・。
      救いがないというか、苦いというか、まあ、こういうのが持ち味の作家ですね。
      『期間限定シリーズ』ですら屈折している。
      青春の蹉跌でしょうか?
      一筋縄ではゆかぬからこそ愛されているのでしょうかねぇ・・・。
      まあ、好きというか、読んでしまうというか、結局愛読してるわけですが・・・。
      そういえば『期間限定シリーズ』どうなるのでしょうね?
      なんか、一昨年の冬に完結篇が出るという噂があったけど、出ませんね・・・。
      シリーズまで屈折しているのですか・・・。
      そうですか・・・。
      それも米澤さんらしいのでしょうね。
    • 2. りらっくま
    • 2014年08月28日 23:52
    • こんばんわ。(*´・ω・)b
      米澤さんの作品は「インシテミル」を最初に読んで
      続いてこのボトルネックを読みました。

      市立図書館で借りて読んだので内容をほとんど覚えてないんです
      ヾ(゚Д゚;)ォィォィ
      惠さんの感想を読んで内容を思い出した次第です|д゚)
      ということは・・・
      ( -д-)

    • 3.
    • 2014年08月29日 16:52
    • mirokuさん☆

      厭世的っていうことばを見事に表す主人公たちだと思います@米澤作品。
      嫌いじゃないんですが、続けて読むとしんどいですね。
      でも、小鳩くんたちは続けて読んでも大丈夫そうです♪
      笑いがあるからかなぁ。

      なかなか完結してくれませんよね、小鳩くんと小佐内さん。
      漢字変換がややこしいな、彼女(´・ω・)

      おととし、そんな噂があったのですね☆
      知りませんでした。
      速く読みたい~。
      でもまだまだかかりそうな気がします。
      今の米澤さんであのシリーズを書けるのか???
      とかいじわるなことも思ったり。
    • 4.
    • 2014年08月29日 16:54
    • りらっくまさん☆

      『インシテミル』はタイトルの意味を問うてちょっと話題になってましたね。
      映像化もされましたっけ??
      米澤作品の主人公はだいたいが厭世的です。
      法月倫太郎探偵よりもずいぶん屈折しています(笑)。
      だから続けて読むとあきちゃう私 苦笑。

      でも期間限定シリーズだけは大好きです☆
      他のは嫌いじゃないけど好きとまではいかないくらいかも。

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