#233 多島斗志之『症例A』|読書NOTE~読んだ本の感想・レビュー~

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#233 多島斗志之『症例A』

症例A
著者:多島斗志之
出版社:角川文庫
初 版:2003年01月25日



内容(裏表紙より引用):
精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる…。正常と異常の境界とは、「治す」ということとはどういうことなのか?七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。


所感:
物語の舞台はとある精神病院。
精神科医の榊は受け持ちの患者・亜佐美の症状に対しての見解で、
臨床心理士の広瀬と対立する。
榊の診断は「境界例」。
一方、広瀬が指摘したのは「解離性同一性障害」の疑いだ。

解離性同一性障害」と聞くとぴんと来ない方も
いらっしゃるかもしれないが、
いわゆる「多重人格」といわれる症状のこと。
症例としては、
アメリカ人のビリー・ミリガンが最も有名だろう。

これに対して榊が主張する「境界例」とは、
広義の精神疾患の概念で…
うーん…簡単にはまとめられないので
wikipediaに譲ることにする。

臨床心理士と精神科医。
一見、大差がないように思えるが
その根本は大きく異なる。

端的にいうと「文系」と「理系」。
心理学を修め、「精神分析」を行って
クライアント(患者)を治癒しようとする臨床心理士と、
医学を修め患者を治療しようとする精神科医。

「疾患を治す」という目的は同じでも、
そのアプローチは異なる。
現在はどうかはわからないが、
両者の間には大きな溝が存在した(or する?)。
本書ではその対立も描かれている。

この亜佐美に対する榊の治療が本書の核となるストーリーだ。
ここにもう一本、首都国立博物館の職員、江間の話が絡んでくる。

彼女(江馬)の実家で見つかった父宛ての手紙。
そこには国立博物館の所蔵品の中に
贋作が含まれていると書かれてあった。

差出人は五十嵐潤吉という
目利きと知られていた国立博物館の元職員。
江間は事の真相を追究すべく、五十嵐潤吉を探し始める。

この一見、なんの関連性もない二本のストーリーが
絡んでゆくのだけれど、そこに意外性はない。
むしろ江間の部分はなくてもいいんじゃないかな、
と思ってしまったくらいだ。
仮に江間パートが無かったとしても…
残念ながら、作品として十分に成立する(と感じてしまう)。

一方、亜佐美の症例をめぐっての榊と広瀬の対立は
なかなかの読みごたえだ。
着地点は想像を超えるものではなかったけれど、
これまでに読んだ中には見られない傾向の作品で、
十分楽しめた。

作品のラストは良くいえば「余韻を残す」、
悪く言えば「中途半端」な終わり方になっているので
賛否の分かれるところのようだけれど、
わたしはこの終わり方、嫌いじゃない。

もしもこの後を続けたとしても、
医師と患者を入れ替えた二番煎じが登場するだけで、
くどくなってしまうだろう。
(未読の方にはなんのことだかわかりませんね、ごめんなさい。)

ところで、本書の中では「統合失調症」という症状に対して
2002年7月以前に用いられていた
旧称の「精神分裂病」という病名が使われている。
本書が執筆されたのが2002年以前なので、
旧称のまま通すことにしたらしい。

精神分裂病――目にするだけで恐ろしい。
その名称から「理性が崩壊する病気」と誤解され、
患者やその周りのひとが偏見や恐怖に苦しんだと聞く。
病名を変えても症状が変わるわけではないが、
呼び名が変わって効果のあった数少ない例の一つだろう。
(個人的な意見だけれど、
名称にこだわりすぎるのはあまり好きではない。
呼び方よりも大事なのは気構えだと思うから。)

ちなみに著者の多島斗志之氏は
2009年末から行方不明になっているとのこと。
失明を苦にしてご自身の意志で消息を絶ったらしいけれど、
早く、そして無事に見つかることを祈るばかりである。


2014年09月08日| コメント:0トラックバック:0Edit
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