カンナ 飛鳥の光臨
著 者:高田崇史
出版社:講談社ノベルズ
初 版:2008年01月06日
内容(裏表紙より引用):
伊賀忍者の末裔である鴨志田甲斐は、出賀茂神社の跡取りとして気楽に暮らしていた。が、日本史を根幹から揺るがしかねない社伝を盗まれた上、兄と慕っていた諒司が失踪。さらに不可解な密室殺人事件に巻き込まれ、現役東大生巫女の貴湖とともに事件の真相を追う。知られざる真実に震撼する歴史アドベンチャー開幕。
所感: 伊賀忍者の末裔である鴨志田甲斐(26歳)は
由緒正しき出賀茂神社のお気楽跡取り。
古武道の達人である父・完爾と神社に仕える老人・丹波の二人に
幼少期からしごかれるもほとんど身につかず。
丹波の孫で現役東大生巫女(休学中)の貴湖(19歳)には
「跡を継ぐ決心をされたのですから、もっとしっかり勉強をされた方が良いと思います」
と正面切って注意されるほどのお気楽ぶり。
しかしある日、出賀茂神社の社伝『蘇我大臣馬子傳暦』が何者かに盗まれた
ことから甲斐の運命が動き出す。
また甲斐が兄のように慕っていた諒司が突然失踪。
窃盗犯と諒司の行方を追う甲斐は
同行していた貴湖と共に密室殺人事件に巻き込まれる…。
出賀茂神社に伝わる門外不出の書物『蘇我大臣馬子傳暦』。
中大兄皇子と藤原氏によって滅ぼされた蘇我氏による中大兄皇子以前の歴史書だ。
歴史を残すは勝者のみ。
『蘇我大臣馬子傳暦』も蘇我氏の滅亡と共に世から消えるはずだった。
しかしその謄本が一冊だけ処分を免れ出賀茂神社の社伝として後世に伝わる。
しかし「敗者の歴史書」が世に出れば、日本の歴史は揺らいでしまう。
出賀茂神社は誰にも知られることなく代々『蘇我大臣馬子傳暦』を守ってきた。
その秘伝書が今回、何者かに狙われた。
幸いにも完爾の機転から本物の書物を奪いさらわれることはなかったが、
何者の仕業かがわからない限りは油断はできない。
『蘇我大臣馬子傳暦』の存在を知る者は多くないはず…
しかし神社が持つ特異の情報ネットワークをもって調べてるも
犯人の正体は皆目見当がつかない。
また、突然失踪した甲斐が兄のように慕う人物である
諒司の行方も杳としてわからない。
お気楽な甲斐と秀才かつ忍術の心得のある貴湖コンビは
①見えない敵
②諒司
この二点を追って日本各地を飛び回り、
本シリーズは進行していく。
そして毎回、甲斐と貴湖が訪れる場所に纏わる歴史の謎解きが繰り広げられる。
第一弾の本書では、
甲斐は完爾の命により貴湖と共に奈良県は飛鳥へと送られる。
そこで遭遇する密室事件。
旧友・柏木との再会。
本シリーズも
QEDシリーズと同じく
現実の事件と歴史上の謎解きの二本立てとなっている。
といっても現実の事件は
QEDシリーズのそれと比べると「しっくり」度が高い。
(でも多くを期待してはいけない)。
歴史上の謎として今回、甲斐が挑むのは大化の改新だ。
不在説が囁かれる『聖徳太子』、『推古天皇』。
そして『大化の改新』。
これらの人物または出来事の正体或いは本質は何だったのか。
貴湖に叱咤されながら甲斐が検証していくのだけけれど、
その過程における蘊蓄はQEDを比べると格段に少ない。
このシリーズは歴史の蘊蓄を求めるよりは、
裏表紙にあるように歴史アドベンチャーとして読むのが正しい楽しみ方だろう。
蘊蓄は多くはないものの、ところどころに考えさせられる文章が登場する。
特に貴湖の発言にのせて。
「それに私たちは、決してたった一人で今この場に立っているわけではありません。連綿と続く歴史の一場面を担うべく、ここにいるんです。ですから、もっと勉強するべきだと思うんです」 或いは、日本の歴史を学ぶには歴代の天皇を覚えるのが一番早いと主張する時の
「歴史は『平安時代』とか『鎌倉時代』などという区分けで変遷するわけではありません。歴史は、その時代の『人』で動き、そして変わって行くんです。それならば『人』を中心にして学ぶというのが、本来あるべき自然な姿だと思いませんか」
このあたりに著者の、
歴史に対する考え方が表れているのではないかなぁ…と想像する。
QEDが蘊蓄満載の参考書とすれば、
本シリーズは参考書を片手に臨む実践問題。
実践ゆえ知識や雑学は少ないが
アドベンチャーとして楽しむことを念頭においておけば、
十二分に楽しめる。
「ほうろく」という名の忍者犬の活躍も楽しいし。
(ちなみに、ほうろくはブルテリア)